狂牛病ＢＳＥ騒ぎ、まさに「騒ぎ」と呼ぶにふさわしい。大多数の日本人はすでにBSEに感染して頭がおかしくなっているとさえ思わせるくらいだ。わが米沢も「米沢牛」ブランドとして知られている(?)食用牛の産地である。牛肉関連企業はこの騒ぎの影響をまともに受けて、昨年後半はひどい状態だった。畜産農家はさらにひどい。同じ食べもの業として他人ごとではない。なぜ、こうも、この国の人たちは付和雷同が好きなのだろうか。カイワレ大根騒ぎもそうだった、所沢のダイオキシン野菜騒ぎもそうだった。農家を社会的に抹殺してはばかるところがない。
池田正行氏は今回のＢＳＥ騒ぎについて「ゼロリスク探求症候群」と名付けて批判している。氏によると、この病的心理とは、日本で喫煙が原因と思われる肺ガンで年間数万の人が死んでいるタバコが受容されている一方で、一人の死者も日本では出ていない狂牛病がパニックを引き起こしている、日本の消費者にあっては危険度を評価するリスクバランス感覚が狂っているとしか言いようがない、と。こういう心理に基づく消費者の行動は、�／�べ物の安全を求める行動が根本にあるので正当化されやすい、�▲螢好�を過大に評価する誤解やデマが背景にある、��この心理の多数派化・集団化が重大な社会問題を引き起こす、�い修亮匆駝簑蠅寮嫻い鮃埓�やメディアに押しつける。といった特徴を指摘している。
わたしもこのページの「清潔恐怖症」で書いたように、食の安全といった事柄に対する日本社会の反応の仕方は常軌を逸したところがある。その社会心理状態のうえに雪印事件もまた同様にくり広げられた。BSEでは発症リスクの非常に低いことにも関わらず牛肉消費が激減するという社会に、つまり客観的に見て妥当な合理性もないままに右から左にがらりと方向転換するという社会に、食品の安全性というレベルの話よりずっと深刻な問題があるように思われる。これは新しい騒ぎのネタが見つかるたびに判子で押したようにパニックを起こす。
そんな風に見ていたら、政治の世界では、田中眞紀子を更迭したとたん小泉内閣の支持率が３０ポイントも下がったという。この３０ポイントの中に含まれる人々というのは一体どういう頭の構造をしていたのだろうか？ おそらく狂牛病騒ぎとまったく同一の心理と構造にちがいない。支持という中身がたんなる気分、人気であった、そういう底の浅い「支持」だったということでしかない。この一時的な気分の上下が世の中を動かすとしたら、恐ろしい話である。ムードに乗せられるだけの国民がどんなひどい未来をもたらすか。昨年の小泉内閣登場劇では、魔女狩り的な集団ヒステリーが「改革」という言葉にかんたんに希望を託した。小泉氏の手法は単純化したキャッチフレーズを、何のためらいもなく、堂々と、開き直ったかの風情で、選択肢はそれ一つしかないかのように、大きな声で、しつこいほどに何度も繰り返す、という特徴を持っている。まさにキャッチセールス、催眠商法の手法である。人はついふらふらと買ってしまう。とんでもない巨額の契約をしてしまう。かつてのドイツが、ヒトラーと宣伝相ゲッベルスによって熱狂的な国家となっていったように。