キム・ジョンイルの核実験で、意気高らかに「制裁」を叫んでいる日本だが、世界はそんなに制裁で熱くなっているのだろうか。よく目と耳を開いて周囲を見た方がいいだろう。東アジアの超零細国家がやった、成功したか失敗したか確認できないような核実験などというのは、世界では、どこか片田舎のチンピラヤクザのケンカみたいなものだ。そのチンピラの「脅威」にさらされている平和な日本が、国際社会の注目を集めている、と思ったら大間違いだろう。
たとえば、アフガニスタンやイラクで何万人がアメリカ合衆国やその同盟軍によって殺されていても、日本人はさほど関心をもって見てきたわけではない。パレスチナでイスラエル軍と衝突が起きても、日本人は注意をはらってきたわけではない。これらの国では今でも毎日起きている人殺しの話なのだが。それに比べれば、北朝鮮がどこかの国に核ミサイルをぶちこんだというのならともかく、誰も殺されていない核爆発実験(かどうかハッキリしない小爆発)ぐらいで世界が鼻血が出るくらい「脅威」を感じている、「暴挙」に怒っている、と考えるほうが余程、頭がおかしいにちがいない。
7月のテポドン・ミサイル発射では、あたかも日本近海に向けてミサイルが発射されたかのようにマスコミは騒いだ。新潟の北何百キロの日本海に着弾とかナントか言っていたのだ。そういう表現をすれば、日本のすぐそばに落下してきたみたいな印象を日本人にあたえるだろう。ところが、実際はといえば、日本の近海ではなくむしろロシアの近海と言った方がずっと事実に近いのだった。煽動報道の典型、情報操作の典型だった。ニッポンのマスコミの薄汚さがそこにはもろに出ていた。
日本国内では、世界中が日本の味方で北朝鮮は世界の敵だ、という調子で騒いでいる。だが、世界でも同じ論調なのだろうか。たとえば、アメリカこそが現代世界の最大の脅威だと感じている人や国がイラク戦争以来この世界にどれほど増えたか、考えてみればいいだろう。もちろん北朝鮮にとって最大の脅威がアメリカなのは当り前として、その最前線基地がこのわが日本列島であり、沖縄にある。世界最大の核保有国、ミサイル保有国、そして新兵器をアフガンやイラクの実戦で性能試験している国、それは北朝鮮の方なのだろうか。世界の歴史で、核兵器を使って何万人何十万人殺した国は北朝鮮だったのだろうか。そうではあるまい。日本の愛するアメリカ合衆国そのものなのだ。
歴史の事実が証明している。その危険な国の軍隊が日本国内に基地を持っているということ。いつでも北朝鮮を叩きつぶせる態勢で。
中国政府は唐家せんを国連安保理の北朝鮮問題担当に配置してきた。唐家せんは日本語がぺらぺらだが、コイズミの靖国問題では日本政府につねに批判を投げつけていた人物だった。ここらあたりに中国の北朝鮮核問題にたいする姿勢が暗示されているだろう。「北朝鮮の脅威」をテコにして日本がアメリカのミサイル防衛基地化することに強い反発をもっていること。これを忘れない方がいい。
では、「同盟国・アメリカ合衆国」はいつでもどこでも日本にとって頼りになるのか。安倍自民党もマスコミも誰も彼も、アメリカが日本を全面的に支えてくれるような、おめでたいムードにあふれている。もちろんリップサービスとしてなら何とでも言うだろう。要は、当たり前のことだが、アメリカ合衆国は常に合衆国自身の利害でもって動くということだ。日本のためを思って動いてくれるだろうという、平和ボケな人たちとはわけが違う。
今回とは性格がかなり違うが、パキスタンの核実験のあとのアメリカ政府と世界の対応をここで思い出してみるのも一興だろう。
参考:
・『インド・パキスタンの核実験』
・『印パ核実験の読み方』
こんなふうに日本では、自分にとって都合いいだけの情報、つまり悪の北朝鮮は完敗、善のニッポンは圧勝ムードという情報だけが世の中に垂れ流されている。それはあまりにもオメデタイのではないか。小泉の独りよがりな外交で、アジアの信頼をまったくなくしてしまった結果、国連安保理改革でも日本はどこからも支持されない程、孤立していたのではなかったか。ついこのあいだのことだが、小泉ニッポンの安保理常任理事国入りの提案をアメリカが支持してくれたかどうか。そういう現実を3日も経つと忘れて、何かと言えば「日米関係が外交の基軸」「日米の信頼関係の強化」と呪文のように繰り返すしか能がないのが、この国の政権だ。
それにしても、「制裁」という言葉には傲慢さがあふれている。大国意識があからさまだ。日本も大国になったものよなあと感激してしまう今日この頃だ。ちょっと昔までは、制裁というとアメリカやソ連、中国などがよく周辺の小国にむけて使っていたものだ。そういう傲慢大国の仲間入りをわが日本も果たしたというわけだろう。アメリカ並みの傲慢さをニッポンも持てるようになった。安倍首相は、そういう「主張する国」を「美しい国」と言いたいのだろう、たぶん。