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『CIA 秘録』を読む  ・・・[2009/2/19]

著者ティム・ワイナーはニューヨークタイムズ記者。本は読む価値はある。アメリカという国の表からは見えなかった一面がよく分かるからだ。ケネディ兄弟が表向きのイメージとまったくちがう乱暴なパーソナリティをもっていたことなどは面白い。いかに多くの国々で気にくわない政権をひっくり返したか、いかに多くの血を流させたか、事実を知る価値はある。そしてそれは遠い過去のことでもなく、ニッポンとは関係ないよその国の話とノンキに構えていられることでもない。

CIAというと、原研(日本原子力研究所)の職員が東海村の海岸に死体で打ち上げられたことがあった、というような怪しげな話を、昔よく聞いたものだ。わたしが若いころ勤めていた零細企業の社長は、日本が原子力開発を始める前後から政府官庁、業界、学界に出入りしていた人だった。原子力関係者には、その性質上からか、CIAということばを特別なニュアンスで口にする人が珍しくなかった。CIAのエージェントが原子力界のあちこちに何食わぬ顔でくいこんでいただろうことは当然想像できる。いつの時代も、核とCIAは、切っても切れない関係にある。

『CIA秘録』にでてくる日本人は、岸信介、児玉誉士夫、有末精三。本には出てこないが、正力松太郎は読売新聞、日本テレビの親玉でありかつ、原子力導入時代の最大の大物だった。初代原子力委員長・正力もCIAの影がついて回った人物だ。有馬哲夫『日本テレビとCIA』

最近でいちばん大きい事件だったのが、『秘録』下巻にも出てくるイラク大量破壊兵器にまつわるCIAのでたらめ情報だ。

この本の全体の調子、主張は何か。かんたんに言えば、いかにCIAがムチャクチャな組織だったか、改革をおこたってきたか、その一つの結果がまちがったイラク戦争をおこすことになった、ということだ。早い話、イラク戦争の失敗の原因と責任は、CIAというアメリカ情報機関のダメさにあったということにある。

しかし、ブッシュ・アメリカの失敗をCIAにおしつけるのは正当ではないだろうよ。ブッシュとチェイニーとラムズフェルドは最初からイラクをつぶすつもりだったわけで、そのためにCIAのウソ情報を利用しただけだ。アメリカ全体が間違っていたのだ、という視点が欠けた書物というほかない。アメリカ人が書けば、どんなに内部を批判することを書いたとしても結局、アメリカの世界支配礼賛、アメリカの自由礼賛の本にしかならないのだろう。

それはともかく、国家権力機関というものはその気さえあれば何でもする、ということだ。CIAに限ったことではない。ロシアの公安組織(またはソ連KGB)といった特別な組織に限った話ではない。一般人の「常識」とはかけ離れたところで、ふつう人が「まさかそんなことはしないだろう」「そんな不法なことは国家機関がするわけないだろう」と思うような方法手段で動くのが、そういう権力組織なのだ。