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パロマ湯沸かし器殺人事件 ・・・ [2010/5/13]

タイトルはなんか推理小説かサスペンス・ドラマの題名みたいだが、例の瞬間湯沸かし器の一酸化炭素中毒死をめぐる裁判のことを書こうというわけだ。

たいていの人なら多分同じ感想を持ったことだろう。あんなことでパロマの社長が有罪になるのか? と。とくに、モノを作ってそれを売って食っている日本人であれば、自分が作った製品が第三者によって改造・改変された結果、人が死んだとして、それでもって自分が裁判で刑務所にぶちこまれる、なんて殺人事件のストーリー展開はぜったいに受け入れられないだろう。

それから、誰かもツイッターでつぶやいていたが、利用者の自己責任はどうなのか、だ。つまり、密閉した室内で長時間ガス器具を燃焼させればどうなるのか、ふつうの大人なら予想がつくだろうという思いが、どうしても浮かんでくる。練炭自殺じゃないが、そういうことをやれば命が危なくなるということは常識ではないか。

すべてのことに言えるが、自分の身を守るのはまず自分自身だ。自分の身は自分で守れ。これが生き物としての人間の基本中の基本だろう。個人ではとても対処できないような大きな危険があるときだけ、誰かがこれを助けて守ってやる。それがふつうの、安全な社会というもの。

ところが、本来、自分で守らねばならないレベルの注意義務さえ払わない。自分の失敗を他人のせいにする。そういう例って近頃増えているように思いませんか? たとえば、ライブドアの株で損した株主が損害賠償を求める、といったこともあった。怪しげな投資話に引っかかった、カネ返せ、という事件も後を絶たない。競馬やパチンコですったら損害賠償請求するのか。この辺の感覚がどうも分からないなあ。

生産者中心の社会から消費者中心の社会へ。この数年のトレンドはこれだ。去年、自民公明政権によって、消費者保護の強化のために消費者庁という役所まで作られた。消費者は神になった。消費者の声は天の声だ。「消費者」ということばは水戸黄門の三つ葉葵の印籠だ。生産者はちょっとでもヘマをすると、徹底的につるし上げられる。消費者がヘマをしても生産者が悪いことにさせられる場合がある。

メーカーが気を利かせたつもりで安全装置をつけたがために、かえって使用者がバカになることはよくあるだろう。いわゆる過保護になることはよくあるだろう。危険があることを忘れる。自分で考えなくなる。安全装置が働くとひんぱんに火が消えるので、消えないようにしてくれと修理業者に頼むユーザもけっこういるらしい。そのとき、修理業者が湯沸かし器の安全装置をはずしてしまった。危険な使い方をしつづけても火が自動的に消えないようになる。不用意に使いつづけた学生が死んだ。ユーザがバカになると言ったら、被害者家族には怒られるだろうか。だれもそんなことは言いたくないけどね。

幼児だけを2.3人残したまま親は外出とか、幼児だけ車の中に残したまま親がいなくなって、子供だけでライター遊びをしてみんな焼け死んだ、というひどいニュースも最近よくある。ライター・メーカーの社長に刑事責任は問えないだろう。子供が使って絶対安全なライター、なんて作れない。使っている側 (ここでは親) にあきらかに注意義務がある。

自動安全装置など初めからつけないで、換気をしないといけないことが当たり前にしておけばいいのだ。それは、使用者の側に責任の一部を負わせることを意味する。使う側が自分で危険を回避する使い方をする義務と責任をもつ。これぞ自己責任の原則。そういう考えに立ち戻ってみたらどうか。

それから例えば、オートマチック車でアクセルとブレーキを踏み間違えて人をひき殺した、というニュースもさんざん聞かされている。いったい何人これで死んでいるのか。自動車メーカーに刑事責任はあるのか。マニュアル車を運転していればこんな事件は起きない。ギア・チェンジという、利用者にとって手間のかかる作業がひとつの広い意味で安全装置になっているのだ。急加速はありえない。便利で手軽なものには人間をバカにする働きが隠されている。

パロマ社長刑事裁判のように、検察が消費者保護という錦の御旗をかかげてメーカーのトップを起訴する。それが当たり前になって、裁判所が大衆・市民に色目を遣ったような判決、こびを売るような判決を出すようになると、消費社会はますます自分で自分を守るという大原則を忘れる方向へ流れるだろう。そして、ますます、悪いことは他人の責任にしてしまう社会になるだろう。いわく、消費者中心の安心安全社会。それってホントに良い社会なのだろうか。

『正義の市民・検察審査会の小沢一郎起訴相当議決』にも書いたように、世の中、どうもこういう異様な風潮、薄気味悪い空気がやたら立ちこめてきている。自分たちは正義だ、あいつは悪人だ、縛り首にしろ。そういう空気だ。消費者の声は天の声、市民は正義、というイヤな空気。

関連:
「イカレタ日本社会1・・不二家事件」
「イカレタ日本社会2・・パロマ事件、シュレッダー事件」