世の中、格差社会だそうだ。
11月のある日、電話がかかってきた。年輩の女性だ。岡山からだという。送ったラフランスについての苦情だった。
あるお客さんからの依頼で、何年も前からそちらのお宅へはラフランスやリンゴ、サクランボを送っていた。いつもふつうより大きめの果物を詰めて出していた。いちおう贈答品扱いだからだ。ところが今年は気象のせいで秋の果実はのきなみ大きくならなかった。いつもは2LサイズになるものもLかMに、いつもはLサイズにまで伸びるはずのものはMか下手をするとSサイズの大きさにしか伸びなかった。しかも10月連休に東北地方を襲った嵐で収穫10日くらい前だったラフランスがバラバラと振り落とされてしまった。とくに大きい果実ほど落ちた。
そういうわけで、当然のことだが、お客さんのうちのほとんどが例年より小さい果実を詰めて出さなければならなかった。我が家は果物店ではないから、卸売市場に行って大きい果実があるところから仕入れてくるわけには行かない。自分の所で生産できた品物をうまくやりくり配分してそれぞれのお客さんに出す他はないのだ。
その送り先からの電話はこんなふうだった。「小さくて、これは何ですか!」という。「クズを送ってきたなあ、そんなの捨ててしまえ、と息子は言っている」と。「岡山は果物が種類がいっぱいあるんですよ。こんなのは要らないのね。送ってくださった方にはお礼の電話はかけたけど・・」。たしかに例年2Lサイズくらいの品物を送っていた相手だから、今年Mサイズしか送れなかった我が家としては申し開きは出来ない。しかし、だ。Mサイズというのは「ふつうの大きさ」を意味する。つまりその品種の正常な生育状態であって、間違ってもクズな状態ではない。「ふつうの大きさ」が分からないお客さんだということだ。こういうのが本当に困る。
モノがある人にとっては、捨ててしまえというモノがいっぱいあるのだ。もったいないとかいう感覚はそこにはもう無い。こんなにモノをあふれさせた社会で、もったいない運動をしましょう、などというアホなことを言う輩がいる。こういうインチキな政治家がニッポンにいたりするから、世の中は暗い。モノをあふれさせ、それでももっと消費を増やせと叫び、景気をよくしなくてはダメだと言い、なおかつモノを大切にしましょう、などという精神分裂、いや統合失調症と言わねば差別用語になるのか、そんな輩がこの世を偉そうに闊歩している。これがこの国の現実だ。
問題の送り先に行った品物よりもさらに一ランク小さいラフランス、つまりSサイズを送った先から、
代金振込の通信欄に次のように書いてあった。
「いつもながら大好評でした。来年もよろしく」
このお客さんは数人からの注文をまとめて代表で我が家に連絡してくれている。その多くが自分で食べる人たちだからウソは言わない。本当に美味しいと思ってくれているわけだ。まったく、食べ物は大きさではない。食べて美味しいことが一番大事なのだ。味についての文句なら真面目に受け止めなければならないが、そうでないことはあまり気を遣いたくない。
それで思い出したが、去年はラフランスが今年のような不作ではなかった。けれどもいつもながら小さい品物は最後まで残る。Sサイズ以下はたいてい自家用とか、親戚に送ったりして片づける。で、たまたま品種は何でもいいから何十箱欲しいというお客さんが入ってきたので、りんごと残っていたラフランスS玉も使って注文数だけの箱を荷づくって送った。このSサイズが送り先でたいそう評判になったらしい。追加は出来ないかという連絡まで来た。残念ながら残りものを処分したわけだったのでそれ以上に残りがあるわけもなく、追加注文を断った。それは四国のお客の話。といったぐあいに、大きさなんかにまったくこだわらない良いお客さんはどこにでもいるのである。
もうひとつの話。こちらはさらに西に進んで広島からだった。 キズりんごが届いた、という電話連絡が入った。この方も前からあるお客さんが送り主で送っている先だが、今年は送った品物が運送業者の扱いが悪かったらしく、傷ついて届いてしまった。それで業者の責任で代品のりんごをもう一度送り直した。ところが、代品がまたまたキズりんごだったというのだ。えーっ??
そんなずはないぞ、と思ったが、その人が現物の写真を送るというのでメールで送ってもらった。数個の写真だったが、ポチッとした点状のキズが写っていた。たしかにキズといえばキズと言える。だけどねえ。これは悪くなるような、つまり腐ってくるようなキズじゃないんですよね。皇室に献上するりんごを作っているのではない我が家としては、この程度の品物でクレームを付けられたあかつきには、農業をやめるしかなくなります。そんなことは電話では言わなかったが、要するにそういうことだ。「そのくらいのものは腐ったりしませんので大丈夫」とだけは伝えて納得していただいた。もっとも、この人は本来の受取人ではなくて、入院中の受取人の代理で受け取った人だったから、まあ、受け取った責任上、クレームを入れてみただけなのかも知れない。
あまりに本質的でないことに、重箱の隅をつつくようなことにこだわる、そういう人が増えるのは世の中のためにならない、とだけは書いておこう。