2001年大雪

この冬の記録的集中豪雪で米沢地方の果樹農家は大きなダメージを受けた。積算降雪量は10メートルを超え、その大半が1月に集中して降った。積雪は2メートルを超える状態が一ヶ月にも及び、為すすべもないといった状況になった。

年寄りの話で決まって引き合いに出されるのは昭和11年=1936年の豪雪。道路脇の街灯の電球がみな盗まれてしまった、つまり誰でも手が届いた、というほどの積雪だったそうだ。このとき、それまで当地方で盛んに栽培されていた桃が全滅したと言われている。桃は比較的背の低い樹なのですっぽり埋まって、一面何もない雪の原になったという。



つぶれた昂林6年生わい性樹(4月上旬撮影)
雪が黒いのは消雪剤による
通常、リンゴの成木は樹高4.5〜5.0メートル。米沢はもともと雪の多い土地なので、他の積雪の少ない果樹産地(青森や長野など)と比べて樹高が1メートルくらい高く仕立ててある。今年の積雪は最大時で2.4メートル程度だったと見られるので、当地の高い果樹をもってしても樹体の下半分が雪に埋まったことになる。それより若い樹、例えば樹齢4年生以下程度のばあい、樹はほとんどすべてが雪に埋もれてしまって、メチャメチャに潰れることになった。

同じ2メートル積もるにしても、休み休み降るのと違って今年はおよそ2週間にわたって晴れる間もなく降り続いた。このため枝が一気に押し下げられてそのまま雪に呑みこまれてしまい、掘り出すのがなおさら困難になった。

台風のような一過性の被害と違って、樹体の被害は数年にわたる後遺症が残るぶん、農家へのダメージがより深刻だ。失われた枝の量は全体で見ると平均2割ないし2割5分程度と見込まれるが、品種によっては3割を超すようなものもあるようだ。今冬の雪害をまとめた場合、樹体の物理的損傷や収穫量減少もさることながら、何年もかけてせっかく育て上げてきた樹体を破壊されたことの精神的なショックのほうが大きいのかもしれない。

兼業農家のばあい畑に行かなかった人も多く、そうした園地では壊滅的な状態になっており、おそらく耕作放棄となる可能性が高い。また専業農家でも手が回らなかった園地、初めから優先順位を低くした園地では、いずれも無惨な姿をさらしている。国道など一般道路に近いそうした農地は、今後売り払う農家が出てくると予想され、米沢の果樹地図に少なからぬ変動が起きてきそう。


1月19日撮影:やっと雪が収まったつかの間の晴天。以下の3枚はわが家のハウスではありません。

グニャグニャに曲がって倒壊したサクランボ用雨よけハウス=N氏園、F氏園。 倒壊したハウス1

倒壊したハウス2
サクランボ・ハウスの手前はりんご矮性樹

倒壊したハウス3
真ん中は跡形もなくつぶれたハウス

大型除雪車
畑の脇を通る国道の除雪車。高さ3メートルの雪の回廊。


写真はクリックで拡大します


北斗の枝掘り。

ほんらい頭の高さより高い枝だが、いまは足の下。

左写真の北斗4月上旬

結局、この枝は元から裂けてしまっていた


わい性栽培の昂林を掘り出す。

写真では分からないが半分くらいの枝がすでに折れてしまっている。


白い支柱の頭の高さは約2.7メートル。

ちょうど股下あたりの高さになっている。支柱しか見えないのは木全体が埋ま ってしまって既につぶれている。
左写真のこれら矮性樹も雪が解けてみると右写真のとおりメチャメチャ。
4月上旬。




わい性栽培のふじ10年生。 埋まった枝を掘り出す。
雪に埋まった枝。 樹幹を守るためにみな切断。

見捨てられた園地(K氏園)。 40年生くらいの樹も樹体ごとつぶれている。


2月5日撮影:自宅まわり

  
我が家のまわりは下ろした雪で窓まで埋まった

写真はクリックで拡大します


2月22日撮影:大雪はもう落ち着いて新たな降雪もほとんどなくなった。


わい性栽培ふじ畑の消雪剤散布

以下のページで使っている写真(栗色、アンダーライン部分)は雪解け後の4月上旬撮影です。
クリックすると写真を表示します。


普通栽培とわい化栽培について

栽植密度は普通栽培が20本/10a程度(間隔7〜8m)なのに対し、わい化栽培は70〜100本/10aという密植で樹と樹の間隔は2mx5m 程度。したがって仕立て方も大きく異なる。普通栽培では、心の枝を取り払って日当たりをよくした開心形仕立てがポピュラーで、3ないし4本の骨組みとなる主枝をつくりそこに小さい成り枝を付けていく。わい化栽培は、主幹をまっすぐ立ててそれを中心に側枝と呼ぶ成り枝をたくさん作っていく。
・普通栽培樹の典型的な樹形開心形
・わい化栽培樹の典型的な樹形主幹形

普通栽培(マルバ台)

ふじは主力商品ということもあって雪害防止の優先順位が高く早めに対応したが、それでも最下部の主枝もしくは準主枝を折損した樹が数本(樹齢15〜20年)あった。4年生以下の幼木は大半が潰れるか主枝候補枝を失った。
ふじ1,ふじ2,ふじ3

北斗はスターキングとむつに接ぎ木した2本が激しく傷んだ。この2本は稼ぎ頭なので、今年の収穫量の大幅減は間違いなし。
北斗1,北斗2=主枝折損
北斗3=付け根から裂開

千秋は雪害に最も弱かった。枝ぶりが雪の積もりやすい形をしているせいか、樹齢にかかわらずほとんどの樹の主枝が傷んだ。
千秋1=4本あった主枝のうち2本が折損
千秋2=4本あった主枝のうち3本折損、再起不能
千秋3=主枝を掘り出すために主軸を切断

王林、スターキング
王林=主枝切断
スターキング=直径15〜20センチの枝でも雪の重みで折損

紅玉は樹齢14〜17年の若い樹が主体なので第一主枝第二主枝を傷めた樹が非常に多かった。
紅玉1=樹齢60年の古木
紅玉2,紅玉3=主枝を掘り出すために切断、成り枝喪失

わい化栽培(M9Aわい性台)

ふじ=(樹齢10年生、50本)=平均3割の枝を喪失した。
[1],[2]=側枝の3〜4割喪失
[3]=3年生幼木圧死
[4]=接ぎ木で折損部の修復可能

昂林=(樹齢6年生30本、5年生50本)=は壊滅的な状態になった。どうにか生き残ったのが20本、主幹以外の側枝がほとんどそぎ落とされたのが35本ほど、のこり25本は主幹もろとも完全に押しつぶされた。こういう幼い樹齢の樹は積雪前に側枝を縄でつっておく([5]参照)が、今年は何の役にも立たなかった。むしろ、縄が上の方の枝や主幹を引っ張るかたちになったので、被害を拡大してしまったようだ。主幹が折れたり潰れたのは、たぶんこれが原因。
[1],[2],[3]=メチャメチャ
[4]=大事な側枝をほとんど喪失
[5]=損傷の比較的少なかった樹

桜桃=サクランボ

樹体=成木の被害は最小限に抑えられた。低い成り枝の折損もあったが、全体から見ると致命傷ではない。ただし幼木はリンゴ同様に潰れたものもあった。

雨よけハウス=幸い倒壊は免れた。一部にパイプの変形があるが、これは容易に修理できる見込み。ただのパイプハウスがどうして潰れるのだろうと不思議に思われるかもしれない。何棟も並列でハウスを建てている場合、棟と棟のあいだにたいてい幅30センチくらいの雨樋を付けている。ここに雪が溜まるのだ。今年の場合、最大で幅、高さ1.5メートルくらい積もっていた。口径42ミリの農業用鉄パイプで組み上げてあるサクランボ用ハウスだが、筋交いの入れ方が悪い農家のハウスを中心に、除雪のタイミングが一日遅れただけで倒壊してしまった例が近隣では多かった。

西洋梨ほか

ラフランスの大木一本の中心に裂け目が入った。支柱での補強が必要になる。他、枝折れが若干みられるが深刻なほどではない。しかし、洋梨もりんご同様4年生前後の幼木の破損がひどい。
ラフランス1,ラフランス2


3月13日撮影

ウサギさんの食事あと。黄色っぽい部分は、皮と芽がすべて剥ぎ取るように食べられて木質部がむき出しになっている。この枝は今年、葉も芽も出さず枯れてしまう。

西洋梨の苗木も徹底して皮を食べられた。「皮をむかれて赤裸」になったのはウサギではなく苗木のほうだった。ドカ雪だったせいか、今年は山に近い畑には頻繁にウサギがやって来た。


今後の対策

・接ぎ木修復・・主幹がどうにか生き残った昂林は、主幹に接ぎ木して樹形を一から作り直す。うまく元通りになるとしても5年はかかる。ふじのわい性台で側枝の接ぎ木可能なものは補修する(写真[4])。普通栽培の樹で主枝が折れたものは修復不能。一部の樹は、残った健全部に接ぎ木して樹形を作り直せるかもしれないが、かなり難しい。

・新植・・・・・メチャメチャになったわい性樹は除去して、新たに購入した苗木を植える。これも5年がかり。新品種なので苗木代も馬鹿にならない。

いずれにしても最大限の取りうる対策をとって修復しなければならないが、少なくとも今年度の収量減の度合いとしては品種によってかなり違うものになると予想している。昂林、北斗、千秋・・といった順で減収となる見通しだ。

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