今年の大雪は、たしかに大雪だったが、積雪量の最高値は1メートル80センチくらいで、2001年の2メートル30センチに比べると大した数字ではなかった。しかし、果樹は大きな被害を受けた。枝折れもひどかったが、野ネズミの食害もかつてないくらいだった。
今年の雪の降り方で特徴的だったのは、ふつうなら雪解けが進み始める2月下旬以降も、雪がまとまって積もり続けたことだろう。平年は「降っては解ける春の雪」のはずが、降っては積もる春の雪になった。それで、減っていく分と新たに積もる分が相殺されて、いつまでも増えも減りもしない状態がずーっと続くことになった。3月は1メートル50から1メートル80センチの間を行ったり来たりした。こんなことは考えられない事態だった。
根雪の量が多くかつ長く解けないでいると、野ネズミが猛烈に騒ぐ。畑には野ネズミが棲んでいる。土の中にモグラみたいに穴を掘って暮らしている。越冬中はアリのように貯蔵食糧を食べつないでいるらしいが、2月下旬くらいにもなると腹を空かして果樹の皮をかじり始める。根雪の中を掘り進んで雪に埋まっているリンゴの樹皮や枝をかじる。根雪が多いと樹や枝が雪に埋まっている高さも面積も枝の量も多いし、埋まっている期間も長い。野ネズミにとっては目の前にエサがいっぱいあるのだ。雪がなければ届かない高さの場所でも根雪を登っていけば届く。
こういう食害を防ぐため積雪の多い地域はそれぞれ工夫をしている。当地では、根雪前に樹の根元を肥料の空き袋で包んでおく。しかし、それより上は木の肌が見えるから、雪が多いとネズミも届く。かじる。こういう被害が今年はかなり多くなった。
被害樹の修復には”外科手術”をしなければならない。樹皮は樹にとって血管みたいなものだから、ここをかじりとられたら養分も水分も流れなくなって樹は枯れる。だから、かじりとられた部分をまたいで、健康な部分同士をつなぐ橋を架けなければならない。その治療技術を「橋接ぎ」という。
ところで、標題の「ぐりとぐら」は有名な福音館の子供絵本。中川李枝子作のロングセラーだ。主人公は野ネズミの兄弟。別に目くじらを立てるわけではないが、こういう動物を主人公に持ってくる発想は、たぶん農家からは出てこない。そもそも、あの絵本の挿し絵にある野ネズミはたぶんアカネズミか何かの仲間で、われわれ果樹農家を悩ませる野ネズミの姿とまるっきり違っている。畑の野ネズミはハタネズミという種類でキウイみたいな楕円形をしている。「ぐり」と「ぐら」の兄弟とは全然ちがう。
日本でも昔から舌切り雀のようにスズメが可愛い善で、舌を切った婆さんが悪者ということになっている。スズメを助ける爺さんは正義の味方だから宝の山をもらえる。これを現実に当てはめれば、スズメを傷つける極悪人の婆さんとは農家であり、生き物を愛する正義の爺さんは町の消費者、といった具合かもしれない。違うかな。動物愛護はおうおうにしてこの構図になるだろう。そういうので良いのだろうかね。子供の絵本だから、まあ良いか。しかし、実際に暮らしの中でこういう動物と向き合っているわけでもない人たちが、動物や自然に対するイメージを子供たちに植え付けていくのは、やっぱりちょっとマズイんじゃないだろうか、と、かすかな疑問も感じてしまう。わたしとしては、スズメの舌を抜いてしまう婆さんの気持ちの方がよく分かるのだ。